【遺言⑨】遺言があっても揉めることはある?

遺言書を手にした家族が、「遺言があれば相続で揉めることはないのか」と不安を感じている場面です。遺言と遺留分の関係を解説する記事の冒頭イラストです。

はじめに

そう思っていませんか。
遺言書は、相続トラブルを防ぐための、とても有効な手段です。
しかし、遺言書があっても、相続をめぐって話し合いが必要になることがあります。
せっかく想いを込めて書いた遺言なのに、なぜそのようなことが起こるのでしょうか。
この記事では、その理由のひとつである「遺留分」について、専門的な話には深入りせず、やさしく解説します。

結論:遺言があっても、揉める可能性はゼロにはできない

遺言書があれば、亡くなった人が「誰に、どの財産を渡したいと考えていたのか」が明確になります。
そのため、遺言書は相続トラブルを減らすうえで、とても心強いものです。
ただし、「遺言書があれば100%揉めない」というわけではありません。
その理由のひとつが、「遺留分(いりゅうぶん)」という仕組みです。

なぜ遺言があっても揉めることがあるの?

遺言では、「財産を誰に、どれだけ渡すか」を、本人が決めることができます。
たとえば、「すべての財産を長男に相続させる」という内容の遺言を書くこともできます。
しかし、その結果、配偶者やほかの子どもが、ほとんど財産を受け取れなくなることがあります。
そこで法律は、一定の相続人について「最低限の取り分」を確保しています。これが遺留分です。
遺言の内容が遺留分を侵害していても、その遺言が当然に無効になるわけではありません。
ただし、遺留分を侵害された人は、財産を多く受け取った人などに対して、侵害された額に相当する金銭の支払いを求めることができます。
これを「遺留分侵害額請求」といいます。
つまり、遺言の内容が大きく偏っている場合には、この金銭の支払いをめぐって、家族の間で話し合いが必要になることがあるのです。

遺留分ってどんな制度?(超かんたんに)

難しく考えなくて大丈夫です。イメージとしては、次のようなものです。
「遺言で特定の人に多くの財産が渡されても、一定の相続人は、最低限の取り分に相当するお金を請求できます」
遺族の生活などを守るための、安全装置のような仕組みです。
ただし、すべての相続人に遺留分があるわけではありません。

遺留分を持つ可能性がある人、遺留分がない人、制度の役割、問題になりやすい場面を整理した表です。配偶者、子や孫、父母や祖父母などは遺留分を持つ可能性があります。一方、兄弟姉妹や甥・姪には遺留分がありません。なお、父母や祖父母に遺留分があるのは、その人たちが相続人になる場合に限られます。

こんなときに起こりやすい

たとえば、次のような遺言です。

  • 「同居して介護してくれた子どもに、財産を多めに渡したい」
  • 「事業を継ぐ子どもに、自社株や事業用の不動産をまとめて渡したい」

こうした考え方は、遺言を書く人の想いとしては、とても自然なものです。
ただし、その結果、ほかの相続人が受け取る財産が少なくなり、「自分の遺留分に相当するお金を支払ってほしい」という請求につながることがあります。

よくある勘違い

「遺留分の話が出たら、必ず裁判になる」と思われるかもしれませんが、そうとは限りません。
当事者同士の話し合いで合意できれば、裁判所の手続を利用する必要はありません。
話し合いがまとまらない場合などには、家庭裁判所の調停を利用する方法があります。
また、「遺留分があるなら、遺言を書く意味がないのでは?」と思う方もいますが、それも違います。
遺言があることで、「自分の財産をどのように引き継いでほしいのか」という本人の意思が明確になります。
それだけでも、相続人同士が話し合う際の大切な土台になります。

遺留分は放棄することもできる

遺留分を持つ人は、本人の意思で遺留分を放棄することもできます。
ただし、亡くなる前に遺留分を放棄する場合は、家庭裁判所の許可が必要です。
本人が納得しているか、不当な圧力を受けていないかなどを裁判所が判断します。
亡くなった後であれば、家庭裁判所の許可を受けなくても、遺留分侵害額請求をしないという判断ができます。
ただし、ある人が遺留分を放棄しても、ほかの人の遺留分が増えるわけではありません。
また、ほかの相続人が遺留分を請求する可能性は残ります。
そのため、「1人が放棄すれば、必ず遺言どおりになる」とは限らない点に注意が必要です。

実務上のポイント

特定の家族に多めに財産を残したい事情がある場合は、次のような対応を検討しておくと安心です。

特定の家族に多く財産を残したい場合の4つのポイント

・ なぜそのような分け方にしたのか、遺言の「付言事項」に気持ちを書き添える

・ 可能であれば、生前に家族へ考えを伝えておく

・ 遺留分を侵害する内容になっていないか、専門家に確認してもらう

・ 遺留分を請求された場合に支払える現金を準備しておく

付言事項には法的な拘束力はありませんが、遺言を書いた人の考えを家族に伝え、納得してもらうための材料になることがあります。

まとめ

  • 遺言があっても、遺留分をめぐって話し合いが必要になることがある
  • 遺留分は、一定の相続人の最低限の取り分を守る制度
  • 遺留分を侵害する遺言も、当然に無効になるわけではない
  • 遺留分を侵害された人は、侵害額に相当する金銭を請求できる
  • 生前の遺留分放棄には、家庭裁判所の許可が必要
  • 遺言を書く段階で、遺留分にも配慮しておくことが大切

遺言は、家族のトラブルを防ぐための、とても有効な手段です。
ただし、「遺言を書けば、それだけですべて安心」というわけではありません。
財産の分け方と遺留分のバランスを少し意識するだけでも、将来のトラブルを減らしやすくなります。
気になる場合は、遺言を書く段階で専門家に相談しておくと安心です。

遺言書を前に、家族が互いの考えを聞きながら穏やかに話し合っている場面です。遺言を作成する際は、本人の想いだけでなく、相続人の遺留分にも配慮しておくことが大切です。

遺言は、将来の安心につながる大切な準備です。
「まだ早いかな」「何を書けばよいのだろう」と迷われる方も少なくありません。
遺言について不安や疑問があるときは、ひとりで悩まず、お気軽にご相談ください。
お話を伺いながら、ご希望に合った進め方を一緒に整理いたします。

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